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大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)284号 判決 1954年10月15日

控訴人 原告 一瀬為三郎

訴訟代理人 富永竹夫

被控訴人 被告 大和信用組合

代表者代表清算人 長谷川徳松

訴訟代理人 稲垣利雄

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金五〇万円及びこれに対する昭和二六年六月一日から完済に至るまでの年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は控訴人において金二〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一乃至第三項と同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするという判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、事実関係について、被控訴代理人において、被控訴組合が中小企業等協同組合法に基く信用協同組合に組織変更した時期は昭和二五年二月二七日であると述べ、控訴代理人において、被控訴人の右主張事実を認めると述べ、証拠関係について、控訴代理人において甲第一〇号証を提出し、乙第三号証は不知、同第二号証、同第四乃至第七号証の各成立を認め且同第四乃至第六号証を援用すると述べ、被控訴代理人において、乙第二乃至第七号証を提出し、甲第一〇号証の成立を認めると述べたほか、原判決の事実摘示に記載したとおりであるから、それをここに引用する。

理由

訴外柴田通之助が昭和二六年三月二八日控訴人主張のとおりの約束手形を振出し、同日被控訴組合の当時の代表理事長谷川茂治が被控訴組合(当時の名称は大優信用組合)の組合長として右手形に支払保証をしたこと、控訴人が右手形の所持人となり受取人欄に自己の氏名を記入して白地を補充した上満期に支払場所に支払のための呈示したこと並びに被控訴組合は当初産業組合法により設立せられた信用組合であるが、昭和二五年二月二七日に中小企業等協同組合法に基く信用協同組合に組織を変更したことは当事者間に争がない。

被控訴人は先づ(一)手形保証は中小企業等協同組合法第七六条に列挙せられた信用協同組合の事業のいずれにも該当しないから被控訴組合の目的の範囲外の行為であり、(二)仮に同法の解釈上組合員に対する手形保証は信用協同組合の目的の範囲内に属する行為であると解釈できるとしても、本件手形保証は非組合員である訴外柴田通之助に対して為された手形保証であるから、やはり被控訴組合の目的の範囲外の行為であり、従つて本件手形保証は無効であると抗争するから、按ずるに、元来手形行為は経済取引に必要な決済の手段であるから、いやしくも経済取引をすることを目的とする法人である以上は、手形行為は客観的に目的遂行に必要な行為として、その法人の目的の範囲内に属するものと解するのが相当である。ところで中小企業等協同組合法に基く信用協同組合は営利を目的としない法人であるが、同法第七六条第一項に定められたように一方において組合員から預金又は定期積金を受入れ他方においてその資金を組合員に貸付けるいわゆる銀行取引を業とする一種の経済団体であるから、客観的に見て右取引に必要な決済手段である手形行為は右組合の目的遂行に必要な行為としてその目的の範囲内に属するものといわなければならない。又手形行為はそれがなされるにいたる基本の関係いわゆる原因関係に基いてなされるのであるが、手形行為とその原因関係とは区別して考えなければならないのであつて、手形行為自体は抽象的手段的行為であるから、たとえその原因関係が法人の目的の範囲外に亘る場合であつても、そのために手形行為そのものの効力に影響を及ぼすものではなく、この場合はただ直接の取引当事者間において原因関係より生ずる人的抗弁が存在するに過ぎないものと解すべきである。従つて本件手形保証が被控訴人の主張のように被控訴組合の組合員でない訴外柴田通之助(本件手形の振出人)との取引としてなされたものであり、非組合員との取引が被控訴組合の目的範囲外の行為であるとしても、右取引の抽象的手段的行為である本件手形保証の効力には何等の影響を及ぼすものではなく目的範囲外であるという主張は控訴人の前者である右訴外人に対する本件手形保証の原因関係より生ずる人的抗弁に過ぎないものであり、しかも手形所持人である控訴人において被控訴組合を害することを知つて手形を取得したという主張並びに立証のない本件にあつては右原因関係に基く抗弁をもつて控訴人に対抗できないものといわなければならない。従つて被控訴人の右抗弁はいずれも理由がない。

次に被控訴人は、本件手形保証当時は訴外平島五郎が訴外長谷川茂治に代つて代表理事となり訴外長谷川は登記簿上は依然代表理事であつたがもはや独断で組合長名義で手形保証をする権限がなかつたにもかかわらず訴外柴田通之助の巧言に欺かれ被控訴組合にとつて義務のみを負担させる本件手形保証をなしたものであるから、右手形保証は被控訴組合の業務遂行に適合しない無効のものであると主張するけれども、右のような代表理事の変更は中小企業等協同組合法第八六条、第八三条に定められた登記事項であるから、同法第八条によつて登記の後でなければ第三者である控訴人に対抗できない筋合であるばかりでなく、その他の事由は手形行為の原因関係に基く抗弁であるから、前同様右抗弁をもつて控訴人に対抗できないものと解する。

更に被控訴人は、控訴人において訴外柴田通之助から本件手形の割引を依頼されながら割引金を同訴外人に渡さず右手形を詐取したものであるから、控訴人は本件手形の正当な所持者ではないと主張するが、控訴人において本件手形を詐取した事実は原審証人長谷川茂治の証言によつてはこれを認めるに足りないし他にこれを認めるに足りる証拠がなく、却つて原審証人一瀬禎三、同佐伯宏、同炭田利男の各証言及び右証言によつて成立を認めることができる甲第七号証の一、二を綜合すると、本件手形は控訴人において昭和二六年三月上旬二回に亘り訴外柴田通之助に対し貸与した合計金四六万円の貸金債権の支払の為に同訴外人より正当にこれを取得したものであることをうかがうことができるから、被控訴人の右主張も採用できない。

そうだとすると、被控訴人は控訴人に対し右手形金五〇万円及びこれに対する満期の翌日である昭和二六年六月一日から完済に至るまでの手形法所定年六分の割合による金員を支払う義務があることが明らかである。よつて、これと判定を異にする原判決は不当であるからこれを取り消し、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴九六条、八九条、担保を条件とする仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 林平八郎 判事 竹中義郎 判事 入江菊之助)

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